あらすじ
砂漠を越えて倒れかけた冒険者ゴルド=ハルバードと学者アルヴェイン=ノクトルスは、死に瀕する乾きの中で偶然にも峡谷の流れを見つけ、命をつなぐ。夜には奇妙な影や伝承の残滓を垣間見て不安に駆られるが、翌朝、上流に緑と果実があることを知り、川沿いの道を進む決意を固める。
やがて二人は、〈魔の山岳〉と恐れられる土地の奥に、整然と耕された畑と白壁の屋敷を発見する。噂に反してそこは緑豊かで、果樹と花々に彩られた静謐な谷であった。屋敷で出迎えたのは、無垢な少女と、彼女の父と思しき館の主エラルファン=シグヴァルド。歓迎を受けるが、客間に置かれた「羽冠の蛇」の像を目にした瞬間、主の態度は不自然に揺らぐ。伝承に登場する聖なる象徴を巡って、何かを隠しているのは明らかだった。
さらに屋敷の中で彼らは、美しい妻アレリアと、彼女に従う白い猟犬を目にする。犬は主を襲わんばかりの獰猛さを見せるが、アレリアの謎めいた言葉で一瞬にして鎮められる。異国的な訛りと人ならぬ気配を漂わせる彼女の存在もまた、旅人の疑念を深める。
安堵と違和感が交錯する屋敷で、二人は食事と休息を得る。しかし彼らは知っている――ここは人も獣も消えた“魔の山岳”。その奥に残された楽園めいた屋敷と、羽冠の蛇の像、そして静かすぎる住人たち。
やがて外の世界の話を求める館の主の微笑の裏で、目に見えぬ縫い目がきしむように、境界を越える音が鳴り始めていた――。