あらすじ
海沿いの静かな町。老いたヨークシャーテリアのリリィは、誰にも見向きもされないベンチで、姿を消した大切な少女との日々を想いながら、ただ潮騒に耳を傾けていた。彼女にとって世界そのものだった少女を失って以来、リリィの心は深い喪失感に包まれている。
ある晩、漆黒の猫フィガロが現れ、リリィの耳に聴こえる波の音は、人々の「消えかけた願い」が眠る「記憶の海」からの呼び声だと告げる。そして、「あの子の願い」もそこにある、と。
少女の最後の想いを知りたい一心で、リリィはフィガロに導かれ、月の道から記憶の海へと足を踏み入れる。海中深く、夢を失った人々の影や、言葉を忘れた老人たちの影と出会いながら、二人は「夜の図書館」にたどり着く。
そこでリリィが見つけた少女の「いちばん最後の願い」は、自身の寂しさではなく、「リリィが、もう寂しくありませんように」という、無私の愛に満ちた言葉だった。
少女の願いを受け取ったリリィは、満たされた心で現世へ戻るが、記憶の海を旅した代償として、その体は光となって薄れていく。最期の夜明け、リリィはベンチの上で少女の愛に包まれながら、静かに光の粒となり消えていった。今もそのベンチには、小さな犬の優しい気配が残っているという。