あらすじ
不慮の事故で家族を一度に失い、深い喪失感の底にいた私、葉山結月(はやまゆづき)。
そんな私のスマホに、ある日奇妙なアプリの招待通知が届く。
『理想の家族(理想のあなたへ)』――
それは、あなたの望む通りの完璧な家族を、期間限定で“レンタル”できるという、にわかかには信じがたいアプリだった。
孤独に耐えきれず、何かにすがる思いでアプリをダウンロードし、「優しい父」「料理上手な母」「明るい弟」をレンタルしてしまう。
翌日、私の家に現れた三人は、本当に“理想”そのものだった。
温かい食卓、他愛もない会話、笑顔の絶えない日々。失われた幸せを取り戻したかのように思えた。
―――しかし、その日から、私の日常は静かに侵食され始める。
私の知らないはずの“家族の思い出”を、彼らが当たり前のように語り出す。
古いアルバムにあったはずの本物の家族写真が、いつの間にか彼らの写真にすり替わっている。
私のことを知る友人が、一人、また一人と「あなたの家族って、昔からその三人だったよね?」と言い出す。
彼らは何なのか? なぜ私の過去を塗り替えていくのか?
恐怖に駆られてアプリを消そうとするが、「契約解除」のボタンはどこにもない。
そして、レンタルした“家族”は、静かに笑いながら私にこう告げた。
「お姉ちゃん、何を言っているの? 私たちが“本当”の家族だよ」
これは、逃げ場のないデジタルな悪夢に囚われた、一人の女性の記録。