あらすじ
1993年、静岡で居酒屋を営む私の店で、24歳のアルバイト、フミヨシがツーリングに誘ってくれた。彼はHARLEYを買う夢を叶え、山梨の七賢酒造にある「甘酸辛苦渋」という酒を目指した。五つの味が順に訪れるその酒は、まさに人生そのものだった。
フミヨシは脳梗塞で倒れた父を支えながら、古紙回収の仕事とアルバイトを続けた。私たちは何度も七賢を訪れ、父親も交えて行く約束をした。しかし1995年、彼の父が急逝。フミヨシは会社を継ぎ、私も店を閉めた。それきり、30年以上の月日が流れた。
2021年、健康を害して断酒した私は、断酒会で「人生の苦さから逃れるため、毒とわかっていても酒を飲む人々」の話を聞く。2025年、偶然訪れた七賢で、フミヨシから電話が入った。父の三十回忌に、あの約束を果たそうと。
再会した私たちは、変わらぬ「甘酸辛苦渋」を飲んだ。甘く、酸っぱく、辛く、苦く、渋い。人生のすべての味を受け入れながら、これからも生きていこうと誓った