あらすじ
――いつからだろう、村に行かなくなったのは。
薪を拾いながら、昔のことを思い出していた。昔、と言ってもほんの3年前くらいだが。
森にある山菜や木の実やキノコを食べ、川で釣りをして、罠にかかったウサギを解体し、薬草を煎じては効果のよく分からない薬を作って書きとめる。そんな生活をずっとやって独りで生きていたら、3年が短いのか長いのか分からなくなってしまっていた。
ミス・クラウディは誰とも会わないように森の奥深くに隠れ住んでいる。その森は常に曇りで灰色であったため、いつからか、灰の森 -アッシュ・フォレスト- と呼ばれ、誰もが恐れる場所となった。手付かずの原生林であるアッシュ・フォレストは、野盗すら寄り付かない本物の未開拓領域である。
そんなアッシュ・フォレストに自分以外の人影を見たとすれば、幽霊か怪物かの見間違いに思うだろう。
「坊ちゃま、戻りましょう。この森は貴方様には危険すぎます」
痩せ気味で白髪の老紳士は、凛々しさのある若者を諫めるも、当の若者は清々しい顔で、
「何を言うか、フレデリーク。誰も寄り付かないのなら危険はない」
などと言う。恐れ知らずの若者は森の中でも目立つ赤い色の、遠目にも仕立ての良さがわかる立派な服を着ている。野盗でも木こりでも狩人でもない。ある種の貴人であろう。
さて、そんな二人組が森をうろついているのを見たミス・クラウディは幻聴か幻覚かと思った。昨日食べたキノコが原因……いや、現実に二人組の男がこの森に入ってきている。
勝手知ったるアッシュ・フォレストはミス・クラウディの庭のようなもので、二人の男に見つからないように家に帰ることなど造作もなかった。