あらすじ
人魚姫。それは海底で暮らす人魚のお姫様が、憧れだった海の外の世界へと飛び出し、そこで一人の人間に恋をして、そして、その初恋に殉じる物語。
人魚のお姫様に死を与えたもの、それは呪いだった。けれどその呪いとは、海の魔女にもたらされるものでも、お伽噺の中だけに存在するのものでもない。
現に、エリという一人の少女は同じ呪いに苦しんでいた。
歌うことが大好きで、憧れの舞台に立って大勢の人に自分の歌を聴いてもらえると喜び勇んだエリは、呪いによってその声を唐突に奪われた。
人魚のお姫様とエリ。生きる時代も、場所も、環境も違う彼女らだったが、その身に有するのは同じ呪い。けれど彼女らは、決してその呪いを手放そうとはしなかった。
彼女たちにかけられた呪い。それは『憧れ』。海の外に憧れた人魚姫と夢の舞台に憧れたエリ。彼女たちにかけられた呪い、その原初の種は、そこに自分の望んだ何かがあると胸を高鳴らせたことだった。二人はわかっていたのだ。この憧れを失えば、残るのは、なぜこんなことをしたのかと、自分を苛む後悔だけなのだと。
そして人魚のお姫様は初恋に殉じた。自分の心を裏切れなかったから。
だがエリは、憧れに殉じることに納得なんてできなかった。そのために、身に宿す呪いを、新たな呪いで書き換える。
これから先も、生きていくために。