あらすじ
勇者は剣を振る。
賢者は知を誇る。
聖女は祈りを捧げる。
——では、明日の冒険を生かすために、
誰が壊れた鞘を直し、
誰が夜営地に結界を張り、
誰が薬草を摘み、火を維持し、地図を読み、
そして、誰が誰の心を折らないように
段取りを整えていたのか。
名もない“雑用”が、
実は世界でいちばん難しい魔法だったとしたら?
追放された青年リオンは、
辺境の小さな宿の離れで
ひとつの術式を展開する。
《運用魔法》。
剣を研ぐ角度、
回復薬の希釈、
獣道の分岐の風の匂い、
人の疲労、嫉妬、虚勢。
——すべては“運用”できる。
行商の少女が笑い、
廃れていた村に灯が戻り、
病に伏せる子どもに温かなスープが届く。
「雑用」の魔法は世界の綻びを縫い、
静かに、確実に、
大陸のかたちを変えていく。
そして、ある日。
かつての勇者が、門の前に跪いた。
「すまなかった。戻ってきてくれ——」
答えは、最初から決まっている。
遅いものは、遅い。
彼はただ、
今日の段取りを続けるだけだ。
主要キャラクター
リオン:元・勇者パーティ雑用係。古代術式《運用魔法》の使い手。淡々と優しい。
フィオ:行商の少女。商才と度胸があり、最初の理解者。
ミロ:廃村の少年。手先が器用で見習いに。
レイナ:王都の宮廷魔術師。“運用”に学術的興味を抱き接近。
アルド:元勇者。成果横取りの常習犯。落ち目になり再接触を図る。