あらすじ
夜、ドスドスと重たい靴音を響かせながら、男が団地の外廊下を歩いていた。足取りは鈍く、まるで靴底に鉛でも仕込まれているかのよう。背中は丸まり、口は半開き。今にもドロドロに崩れ落ちそうであった。
ようやく自室の前にたどり着くと、ポケットから鍵を取り出し、肺の奥の空気をすべて吐き出すように深く息をついた。
額に滲んだ汗を手の甲で拭い、鼻をすすり上げる。四階まで階段を登ってきたせいで――ということにしたい――呼吸は荒く、心臓は嫌に強く脈打っていた。こうなることは想像がついていた。それでも男はエレベーターを使う気にはなれなかった。ただ立って待つあの時間が、今夜の彼には耐えがたいものだったのだ。
しかしこうして自室の前に立って鍵を手にしていると、張り詰めていた心は少しずつ落ち着きを取り戻し始めていた。