あらすじ
景司の恋人・美知子は、朗らかで働き者だったが、歌を歌えば誰もが顔を見合わせて笑うほどの音痴であった。会社の飲み会や町の寄り合いで彼女がカラオケを歌うと、場は「幼稚園のお遊戯会」のようになり、皆が腹を抱えて笑った。最初はその笑いを「人を和ませる力」として受け止めていた美知子だったが、ある祭りの余興で心ない嘲笑を浴び、深く傷つき、人前で歌うことをやめてしまう。
しかし、病に伏す景司の同僚から「もう一度美知子さんの歌を聴きたい」と懇願され、勇気を振り絞って歌ったとき、彼は涙を流して「心が楽になった」と言った。その言葉が、美知子の心を大きく変えた。音痴は恥ではなく、人を救う力である、そう受け入れることができたのである。
やがて美知子は再び人前で歌い、今度は笑いと共感をもって迎えられた。景司は「お前の音痴は天から授かった才能だ」と支え続け、二人は夫婦となり、長い年月を笑いに包まれて生きていく。夕暮れの縁側で響く音の外れた歌声は、誰よりも正しい人生の調べであった。