あらすじ
姉に婚約者を寝取られ、社交から離脱した辺境伯家の次女レティシア。
心を休めるため向かった保養地への道中、彼女は“兄に婚約者を奪われた”公爵家嫡男アーロンと出会う。傷の形が対称な二人は、温泉街、港町、湖畔のランタン祭、短期クルーズ……と、行き先を少しずつ重ねながら、「見ない自由」「読まない勇気」「境界線の宣言」を言葉にしていく。
やがて元婚約者とその“新しい相手”からの茶会招待、姉や兄からの“いまさら戻ってきて”という掌返しが訪れるが、二人は社交の作法で静かに受け流し、仮の指輪から本当の指輪へ――関係に形を与える。
「私の時間は、私の手に」。
涙や断罪の見世物はない。ただ、蜂蜜の一滴、結び直したスカーフ、温度を測った一杯の紅茶のように、日々の所作で心を立て直していく。旅の終わりに選ぶのは、派手な復讐ではなく“ふたりで暮らす”という穏やかで強い決断。
帰郷の席でレティシアが告げる——「いまさら戻ってきてなんて言われても、困ります」。