あらすじ
《この作品は自主企画「おいでよ!いくら(丼)をフィーチャーした作品」への参加作品です。》失恋からひと月、孤独な夜を過ごしていた「私」は、ある日ふと気づく。冷蔵庫の奥が、どこか別の世界へ繋がっているのだ。最初はただの暗闇にしか見えなかったが、やがてそこからは毎晩のように出来たての夕食が現れる。焼き魚、味噌汁、鍋焼きうどん、そして思い出のいくら丼──温かく家庭的な料理の数々は、かつて同棲していた恋人・諒介の姿を鮮やかに呼び起こしていく。
なぜ冷蔵庫が料理を差し出すのか。向こう側には何があるのか。皿に盛られたご馳走を口に運ぶたびに、彼との思い出と、選ばなかった未来がにじみ寄る。もしかしたら、冷蔵庫の向こうには、諒介と別れなかった未来が息づいているのかもしれない――。
もしもの未来は、いつだって輝いて見える。けれど一匙の後悔も、結局は自分の食卓に並べるしかない。失恋の余韻と食卓の温もりが交錯する、ほろ苦い幻想小説。