あらすじ
梅雨入り前、佐伯悠斗は東京の外れにある古びたアパート「青柳荘」に越してきた。
家賃四万円という破格の条件に喜んだのも束の間、隣室・201号室から幼い子どもの声が壁越しに響きはじめる。
しかし管理人によれば、そこは一年以上も空き部屋のままだという。
夜ごと近づく囁きは、悠斗の名前を呼び、部屋の中の私物を次々と言い当てる。
やがて彼は、郵便受けに差出人「お父さん」と記された古いハガキを見つける――宛名は自分と同じ“佐伯”だった。
隣の部屋の子どもは誰なのか。
なぜ自分の名を知り、失われた家族の記憶を揺さぶるのか。
静かな廊下、埃を被ったドア、夜半のコンコンという音。
封じてきた過去が、少しずつ扉を開けていく。