あらすじ
代々続く名門・水鏡(みかがみ)神社の分家に生まれ、「神童」ともてはやされた浅葉奏(あさば かなで)。
幼い頃から神様の声を聞くことができた彼は、しかし十八歳の誕生日を境に、その不思議な能力を失ってしまう。
「出来損ないめ」
才能を失った奏に浴びせられたのは、本家の跡継ぎである完璧な兄・律(りつ)からの冷たい言葉だった。
家を追い出され、降りしきる雨の中、都会の片隅で絶望に打ちひしがれる奏。彼が雨宿りのために駆け込んだのは、忘れられたように佇む一軒の古道具屋「夕凪堂(ゆうなぎどう)」だった。
そこで彼を待っていたのは、古風な着物をまとった美しい少女・紬(つむぎ)と、一匹の三毛猫・琥珀(こはく)。
紬に差し出された温かいお茶を一口飲んだとき、奏は店内に置かれた古道具たちから、ざわめくような不思議な「声」が聞こえることに気づく。それは神様の声とは違う、モノに宿った記憶や想いの断片だった。
神様との対話能力を失った代わりに、モノと対話する新たな能力に目覚めた奏。
彼の力を見抜いた紬は、店の品々に宿る想いが集まって生まれた付喪神(つくもがみ)であること、そして猫の琥珀が猫又であることを明かし、奏に住み込みで働くことを提案する。
これは、神様に見放された一人の青年が、モノと人、そしてあやかしが集う温かな古道具屋で、失くした絆と自身の居場所を見つけ出す、優しい再生の物語です。
【登場人物紹介】
浅葉 奏(あさば かなで)
本作の主人公。18歳。代々続く水鏡神社の分家の生まれ。かつては神様の声を聞く「神童」だったが、能力を失い家を追放される。その後、モノの声を聞く新たな能力に目覚め、古道具屋「夕凪堂」で働くことになる。心優しく、少し気弱なところもあるが、モノに宿る想いに真摯に寄り添う。亜麻色の柔らかな髪が特徴。
紬(つむぎ)
古道具屋「夕凪堂」の店主。見た目は15歳ほどの可憐な少女だが、その正体は店に置かれた古道具たちの想いが集まって生まれた付喪神。腰まで届く艶やかな黒髪を持ち、古風な着物を常着としている。落ち着いた物腰で、古めかしい言葉遣いをする。奏の能力を見出し、彼を夕凪堂へと導く。美味しいお茶を淹れるのが得意。
琥珀(こはく)
夕凪堂で飼われている三毛猫。その正体は、長い年月を生きた猫又。普段はただの猫のふりをしているが、奏と紬の前では人語を話し、的確なツコミを入れるしっかり者。夕凪堂の頼れるご意見番であり、奏の良き相棒となる。
浅葉 律(あさば りつ)
奏の兄。22歳。水鏡神社の本家跡継ぎで、次期当主。神主として絶大な力を持ち、容姿端麗、文武両道と完璧な人物だが、プライドが高く、自分にも他人にも厳しい。力を失った奏を「出来損ない」と見下し、家から追放した。奏の新たな能力に目をつけ、我欲のために利用しようと画策する。