あらすじ
【更新】毎日5:30/17:30/21:00/長崎・廃村伝奇×記者サスペンス
潮の音だけが名前を覚えている――。
長崎県の半島奥、地図から消えた「潮鳴村」。土砂災害で全戸が退去したはずのその村に、いまも「灯りが一つ、毎晩二一時に点く」と通報が入る。地方紙の社会部でくすぶる三十路記者・相良弓(さがら・ゆみ)は、上からの“雑用”として現地確認を命じられる。だが弓には約束がある。定時で帰る。帰って、もう一度ペンを握るために。
村跡で見つかるのは、誰も書かなかった「記録の抜け」。住民票の連番に空白。防災無線のログに残らない呼びかけ。慰霊碑の名が、日ごとに増える。弓は紙面の都合で切り捨てられた過去を拾い集め、廃村の“現在”と接続し直していく。
同行するのは、辞令待ちで左遷に近い配置の写真担当・篠目(しのめ)と、地元の元消防団長。彼らの証言は互いに嚙み合うのに、どれも公式の帳簿に載らない。夜二一時、朽ちた集会所の奥で、弓は古いテープレコーダーを回す。「この録音は、定時で切る」。
取材メモ、切り抜き、FAX受信票、アナログの断片たちが、“誰かが消した物語”を輪郭づける。弓は気づく――消えたのは人ではなく“名前”だ。
これは、働き方の誓いで自分を守りながら、忘却に抗う一人の記者の再起の記録。
定時を守ることは、逃げではない。明日の取材に立つための構えだ。
21:00、潮鳴村の灯りが点く。17:30、記者はデスクに原稿を置く。
二つの定時が、やがて同じ場所を指す。
“メディアミックスの時代に、記録はまだ武器になる”。
地方紙の現場×廃村伝奇×メタ・ドキュメンタリー。重厚なのに読みやすい“定時爆発”サスペンス、はじまる。