あらすじ
古びた商店街の一角に、ひっそりと灯りをともす小さな骨董屋がある。
看板には掠れた金文字で「古道具 モンキー商會」と書かれていた。
店主のモンキーは三十代ほどの男で、無精ひげを伸ばし、やや猫背気味に歩く。
人当たりは柔らかいが、どこか底の見えない笑みを常に浮かべている。
男の客にはそっけなく、短く答えるだけ。
だが、女が訪ねてくると、その態度はまるで別人のように変わる。
「へぇ、目がいいですね。これ、昭和初期の手鏡ですよ。鏡面のくすみが味なんです」
声は低く、よく通る。
女の客が微笑むと、モンキーは嬉しそうに肩をすくめ、店の奥へと視線を向けた。
「もしお時間あれば、奥にも珍しいものがいくつかあります。普通はお見せしていないんですが……」
その誘い方が絶妙だった。
軽い冗談のようでいて、拒む理由を与えない。
女はつい頷き、奥の扉の向こうへと導かれていく。
古びた引き戸が閉まる音が、ゆっくりと店内に響いた。
しばらくして、静寂。
通りの風鈴がかすかに鳴る。
やがて扉が再び開いた。
モンキーが一人で出てきた。
右手には白い手袋。
シャツの袖口に、赤黒い染みが滲んでいる。
彼は何事もなかったように、それを指でつまみ上げ、
軽く息を吹きかけて笑った。
「……やれやれ、また落ちにくいな。」
外では、夕立の音が遠くから近づいてくる。
骨董屋の看板の灯りが、湿った空気の中でゆらゆらと揺れた。