あらすじ
『課長と課長補佐の夜』
昇進の夜
ワイングラスが触れ合い 乾いた音を立てた
私たちは笑っていた
同じ夢を 見ているつもりで
あなたの瞳の奥で
何かが遠ざかっていく
それを「疲れ」と呼んで 私は見ないふりをした
水曜の夜
会議室の蛍光灯が 白く瞬き
私の影だけが長く伸びていく
あなたはその頃 どんな光の中にいたのだろう
洗濯機の中で回るシャツ
知らない香水の匂いが
泡の奥から 微かに笑う
「愛されてるつもり?」と
昇進は勲章であり 鎖でもあった
勝ったのは仕事 負けたのは心
あなたの横顔より 書類の山を信じた十年
離婚届の白紙
そこに私の未来が映っていた
インクを落とすたびに
胸の奥で何かがほどけていく
朝のコーヒー
静かな部屋
カップの縁に映る自分は
もう“誰かの妻”ではない
課長と課長補佐の夜は
終わった
だけど私の物語は
ようやく 始まったのだ