あらすじ

四十歳のしがない独身男性である私。地方都市の片隅で入社後二十年間、小さなアパートの一室に住み続けている。ひとり言が多い私。出社時に向かう車中も、会社のトイレでの排泄中も、もちろん自宅でリラックスして深夜番組を見ている時もひとり言は止まらない。何をひとりでぶつぶつと呟く必要があるのかと疑問に思う一般人の方々は多いことだろう。ただ、これからの自分の行動を勝手に宣言し、心に浮かんだ気持ちを口に出さずにはいられない。ある日、業務中に、昨年私の所属する部署にやって来た入社十二年目の後輩である藤井から私のひとり言がうるさいと注意を受けた。それまで親や兄弟からはもちろんのこと、会社の上司や同僚からもそんな指摘を受けたことはなかったので、私は絶句した。藤井の言葉に愕然とした私は午後の仕事に手が付かなかった。次の日、私は懲りずに無意識でひとり事を言っていたらしい。もしかしたら藤井への愚痴を口にしていたのかもしれない。藤井の怒りを買ってしまった私は上司や同僚がいる職場の中心で、藤井から叱責を受けた。「それはサウンドハラスメントですよ!」藤井が怒る理由は尤もであり、私の行動が社会規範に反することもわかっている。私はうつ向き、藤井に頭を下げ、二度とひとり言は言わないと誓った。ひとり言を失った私は、脳内で自らの行動のきっかけを作らないと何も動けなくなった。数日して上司からなんか様子がおかしいのではないかと指摘されたが、私には苦笑いをしてやんわりと否定することしかできなかった。ただ与えられた業務は変わらずそこにあるため、私は次第に身動きが取れなくなった。苦肉の策として私がとった行動は、他人に聞き取れるか聞き取れないかギリギリの声量で口にするひとり言だった。自分にしか聞き取れない程の小さな声で話すひとり言で、行動はスムーズになった。休日のある日、いつもの喫茶店でコーヒーを飲みながら、文庫本を読んでいると、見知らぬウェイトレスの女性から声をかけられた。 「毎日あなたの話を楽しく拝聴しています。」と。

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エブリスタ
エブリスタ2025/10/14
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