あらすじ
春の終わり、祓い屋・焔は余命を宣告される。
病に蝕まれた身体、冷めた眼差し。
それでも彼の傍には、いつも式神の雅がいた。
主従であり、恋人であり、互いを救い合うことしかできない二人。
雅が拾ってきた古書には、こう記されていた――
「桃の道を行け。そこに、遥か彼方、《桃源郷】がある」
死の代わりに祈りを求めて、焔と雅は西へ向かう。
春を越え、風の峠を越え、湖の底で祈りの巫女と出逢い、
月を喰らう都で神と対峙し、
砂の祠で“影の自分”と向き合う。
旅の果てに焔は知る。
祓いとは滅ぼすことではなく、
赦しとは忘れることではない。
――それは、生きることだった。
炎に焼かれ、風に抱かれ、水に沈み、
何度も死を越えて、彼はなお、雅を愛した。
「愛とは赦しか、それとも呪いか」と神が問う。
焔は笑う。
「どっちでもねぇよ。愛は、燃えるだけだ。」
やがて世界は灰に還り、桃の花が火の中で咲く。
炎の中でふたりは再び出会い、
手を取り、歩き出す。
「もう祈らない。もう赦さない。
それでも灯を絶やさずに生きる。
穢れた火を抱いて、それを誇りにして。」
風がふたりの背中を押す。
その風の中に、祈りの匂いがした。
――春が来るな。
――ああ、“遥か彼方”からな。
祈りと赦しの果てに生まれた愛が、
ふたりを「生きる」へ導く。
命の残り火を抱いて旅する男と、
彼を愛した式神の物語。