あらすじ
白い壁に灯る淡い光は、まるで霧の粒子が室内にまで入り込んできたかのように柔らかく、食器の影は壁面に淡く溶けていた。窓の外には濃い霧が漂い、街灯の光はその中で丸く滲んでいる。音という音は、遠い誰かの笑い声と、グラスの縁がかすかに触れる澄んだ響きだけ。世界が一枚の絵のように静止している。
いつもならこの時間、厨房からはマスターの軽やかな鼻歌が聞こえてくるのだが、その夜に限って店主は奥に籠もり、新しいソースの試作に没頭していた。
店内に残っていたのは二人の常連と、奥の隅のテーブルに座る見知らぬ男だけだった。
……そして、奇妙な会話の幕が静かに上がる。