あらすじ
『灰の街(The City of Ashes)』
灰が降る。
昼と夜のあいだに、
夢と現実の境界をなくしたように。
かつては、
パンの香りが漂い、
笑い声が通りに満ちていた。
いまはただ、
割れたガラスと、
焦げた木片と、
沈黙だけが残っている。
風がひとつ、
通り抜ける。
そのたびに、灰が舞い上がり、
記憶の形を描こうとしては崩れる。
「まだ、生きてるのか?」
と、誰かが問う声が聞こえる。
答えは、どこにもない。
ただ足跡だけが、湿った灰の上に残る。
この街は、
希望の焼け跡でできている。
祈りを失った手で、
私たちはまだ火を探す。
見えない太陽が、
雲の奥で震えている。
そのかすかな光を、
灰色の瞳が追いかける。
——終わりではない。
終わりであり続けることが、
この街の宿命なのだ。
それでも、
私は歩く。
灰の中を。
崩れた街角を。
誰もいない未来へ向かって。
ひと粒の灰が、
指先に溶ける。
それが涙なのか、光なのか、
もう、わからない。