あらすじ
戦火のワルシャワで家族を失った少年ミロシュは、祖父母とともに脱出し、バルト海を越えてスウェーデンの小さな村に辿り着く。
白樺が風に鳴るその地では、誰もが誰かを失いながらも、確かに「生」を続けていた。
言葉の通じぬ異国で、祖父は石工として働き、少年は「よそ者」として村に溶け込もうとする。雪と木屑と祈りの匂いのなかで、彼は初めて「仕事」と「赦し」の意味を学んでいく。
祖父が語るのは、廃墟の下から拾い上げた一本の彫刻ナイフ。
「道具は、人の手の延長なんだ」――その言葉が、やがて少年の人生そのものになる。
季節は巡り、少年は青年へ、父へと変わってゆく。
森に響く銃声、息子ヴィーダルとの別れ、白樺林に降る初雪。
それらはすべて、過去の亡霊と未来の希望を結ぶ静かな儀式のようだった。
やがて時代は変わり、世界が情報へと変容していくその日、彼は「生きるとは何か」という問いをもう一度見つめ直す。
戦争の残響、移民としての孤独、そして世代を超えて受け継がれる手の記憶。
この物語は、一人の少年が「故郷を持たぬまま故郷を作る」までの長い年月を描く。
バルト海を渡った祈りの果てに、彼は知るだろう。
――生とは、失われたものに名を与え続けることだと。
北欧文学の静謐さと東欧の記憶文学が交差する、戦後人間史の叙事詩。
白樺が語らぬものを、人が語り継ぐための物語。