あらすじ
聖痕(スティグマータ)の発現は、主に宗教的な人物の体に現れる超常現象だが、医学的には皮膚の異常出血や創傷として扱われ、皮膚科と精神科の交差領域で診察・研究される。血汗症や精神性紫斑などの診断名が用いられ、身体的・心理的要因の両面からアプローチされる。
血汗症のメカニズム(極度のストレスによる毛細血管破裂)は、皮膚科の専門領域である。また、自己誘発性や心因性要因(トラウマ、信仰による暗示)が疑われ、精神科では、心理評価を実施する。自己血液感作症候群のように、精神的なストレスが引き金となる場合が多い。これらの分野が連携した「皮膚精神医学(dermato-psychiatry)」が最も適切な診察領域と言える。
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都内のIT企業に勤務する神宮寺貴美子は、朝、ベッドから起き上がり、シャワーを浴びていて、右腕の前腕部の内側に奇妙なアザが浮き出ているのに気付いた。ポリエステルの垢擦りで擦っても消えなかった。それはアルファベットのような彼女が見たこともない文字が前腕部に平行に10センチほどの長さで四列に浮き上がっていた。文字はテレビで見るアラビア文字のようでもあった。触ってみても皮膚に入れ墨をしたようで、スベスベしていた。
バスルームから出て、彼女は部屋を点検した。ドアはしっかりとロックされてチェーンがかかっている。ベランダへの窓も大丈夫だった。大きくもない部屋のクローゼットとかトイレも調べたが誰もいない。彼女一人だった。
(まさか昨夜誰かに睡眠薬を飲まされて眠っている内に入れ墨を入れられたってわけじゃなかったな)
彼女はいろいろ考えたがこんな皮膚の異常が現れる原因に思い至らなかった。アレルギーがあるわけじゃない。でも、アレルギーは急に体質が変わって現れることもあると聞いたことがあった。昨日食べたものを思い出したが、別段、普段食べているものと同じものだ。おかしな食材を摂取したわけでもない。
(落ち着こう。まず、写真を撮っておこう)
タオル姿でダイニングの椅子に腰掛け、スマホで十数枚、いろいろな角度から写真を撮った。スマホの画面を拡大してみる。どう見ても無秩序な入れ墨?アザ?ではない。これは文字だ。しかし、なぜ私の腕に文字が浮き出るの?なぜ?