あらすじ
【※ネタバレ含みます】
25世紀――国家直属の時空研究組織〈クロノス機関〉の観測員エイドリアンは、任務中の事故で時空の歪みに呑まれ、16世紀フィレンツェへと堕ちた。
未来への帰還手段を失い、孤独と絶望の中で彷徨う彼を救ったのは、サントロ伯爵家の若き令息、ダンテ・ディ・サントロだった。
芸術を愛する青年貴族ダンテは、異国から現れた青年・エイドリアンの神秘的な美しさと、使用人として雑事を楽しげにこなす無垢な笑顔に心を奪われていく。
知れば知るほど惹かれる想いは抑えられず、やがてその感情は理性を超えてゆく。
しかし、エイドリアンには――「過去の人間と深く関わってはならない」という、未来を守るための絶対の掟があった。
それでも二人は、抗えぬ愛に導かれるように、時を越えた禁忌へと踏み出してしまう。
だが、運命は容赦なく二人を引き裂く。
ダンテには政略結婚の命が下され、エイドリアンには「未来への帰還」が迫っていた。
別れの刻限、エイドリアンはついに自らの正体を告げる――自分は未来人であり、いずれこの時代から消える存在だと。
信じることのできないダンテは、怒りと絶望に囚われ、愛する人を他国からのスパイと疑い、閉じ込めてしまう。
しかし、父カルロ伯爵の助けによってエイドリアンは逃され、残されたダンテは、ようやく己の愛の愚かさに気づくのだった。
時を同じくして、エイドリアンのもとに未来から帰還の知らせが届く。
ダンテは馬を駆って彼を追うが、時空の扉は無情に閉ざされ、二人の手はすれ違った。
――25世紀に戻ったエイドリアンは、かつての恋の痕跡を探すが、どこにもダンテの名は残っていない。
ただ、ある美術展で見つけたのは、作者不明の肖像画。
そこにはエイドリアンを描いた絵が幾枚も並び、その裏には、ダンテの切ない恋文が隠されていた。
そして知る――彼が、エイドリアンを失った三年後に命を絶っていたことを。
ダンテの、一途で儚い愛の痕跡に涙するエイドリアン。
同僚サトルの献身によって過去への再帰を叶えた彼は、二度とダンテを運命に手渡さないと誓う。
そして婚礼の日、ダンテの馬車の前に現れる。
「――もう、離さない」。
未来永劫続くはずだった運命を書き換え、二人は時を越え、命を懸けた愛を選び取る。