あらすじ

「ぬいぐるみに綿を詰めるのはもう古いよね」 「今はなにを詰めてるんですか、先輩」 「たとえばそれはトムヤムクン」 「トムヤムクン」  西方《にしかた》先輩は机の上に乗っている大きな鯛のぬいぐるみを指で示す。  私はおそるおそる鯛のぬいぐるみを抱き寄せた。ツンとした香りをかすかに感じる。 「どうやってトムヤムクンをぬいぐるみにできるんですか」 「ちょっといつもと縫い方を変えたらできたんだ」  相変わらず先輩の言うことは常人の理解を越えている。さすがは裁縫部きっての天才だ。 「今度なにかいらないものがあったら言って。僕がぬいぐるみにしてあげる」 「こわすぎるんですけど」  冗談だよ、と自分の手元を見つめながら先輩は微笑む。  私はうまく笑えなかった。理由はふたつある。  天才の冗談は冗談に聞こえないからというのがひとつ。  先輩の微笑みに見惚れてしまっていたからというのが、ひとつ。

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エブリスタ2025/10/09
  • 現在の作品紅糸よりアイを込めて