あらすじ
それはまだ人と人とが刃をまじえて戦う時代。まだ神や仏や悪鬼が信じられ、また呪術や魔法の威力も色濃くたちこめていたころ。
広大な大陸の最南東、西と東の文化が混在する街、香澳門(しゃんおうもん)。大陸一の遊里、楽海遊郭(らーはいゆうかく)はその一隅にあり、五大楼と呼ばれる大見世(おおみせ)をかかえて、日ごと夜ごと、色と欲と金が織りなす喜怒哀楽をくり広げていた。
五大楼の最筆頭、富貴楼には、あるひとりの引込禿(ひっこみかむろ)がくらしている。
誰からも将来を期待される彼女は、しかしこの地に流れついて以来、ずっとずっと、自由を夢見て生きていた。
それでも、妓女として身をひさぐときは刻々と近づいてくる。
不安とあきらめと焦燥、苦悶と怨嗟。さまざまな想いに悩まされる暮らしを送りながら、ある日彼女は路地裏でひとりの男に出会う。
彼は、天秤棒に人々の汚物をさげて歩く汚穢屋(おわいや)だった──。