あらすじ

2025年、カンボジア南部のバサック川で、若き研究者・白石悠人は、ありえない魚に出会う。それはインドネシア固有種の淡水フグ「パオ・パレンバンゲンシス」。なぜこの魚が、遥か離れたカンボジアの農村地帯に棲息しているのか――その謎を追う白石の調査は、80年前の戦争へと遡る。 1942年、太平洋戦争の緒戦。日本軍はスマトラ島のパレンバンを制圧し、石油施設を守る後方部隊が駐留する。その中に、下関の老舗料亭でフグの調理技術を極めた板前・和田一郎がいた。彼は主計兵として炊事班を率い、兵士たちの食を支えていた。 しかし、戦況は悪化し、補給線は断絶。兵士たちは飢えに苦しみ、命を落とす者も続出する。そんな中、和田は川に大量に棲む淡水フグに目を留める。現地人が「毒がある」と忌避する魚を、彼は命を賭して調理し、食糧として活用することに成功する。 この発見は軍部に伝わり、「河豚計画」として南方戦線の食糧資源として注目される。和田はフグを生きたままベトナムへ輸送し、養殖を試みる任務を受けるが、敗戦の報が届き、すべての計画は崩壊。彼はカンボジアの川にフグを放ち、歴史の闇へと消えていった。 そして現代。白石は村の長老から「日本兵が去った後、川に妙な魚が増えた」と聞く。それは、戦場で咲いた“毒の命”――飢えと希望の狭間で放たれた命の残響だった。

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小説を読もう2025/10/08