あらすじ
本作は、戦争末期に特攻兵として散っていった十三人の若者の「最期の走馬灯」を描いた連作小説である。それぞれが異なる境遇に生まれ、異なる夢を抱き、しかし同じように死へと追いやられた。彼らは零戦や人間魚雷「回天」に乗り込み、死の直前に走馬灯を見、愛する人や故郷、夢や未完の未来を幻視する。
第一章では、農村出身の青年が零戦に乗り、稲穂の香りと母の笑顔を抱きながら爆炎に消える。第二章の都会育ちの書生は「知を求めた人生」と「戦争への憤り」を胸に、暗い海中で回天と共に沈んでいく。第三章の職人の息子は工房の木の香りと恋人との約束を抱え、第四章の長男は弟妹を守る夢を断ち切りながら波に消える。第五章の音楽を愛した青年は、最後に寮歌の旋律を聴きながら突入する。第六章の漁師の子は父と漕いだ海を思い出し、第七章の病弱な少年は憧れた「青空」にやっと届いた錯覚の中で消える。
第八章の弟は、戦死した兄の影を追うようにして逝き、第九章の教員志望の学徒は黒板の前に立つ夢の中で子どもたちに微笑む。第十章の婚約者を残した青年は、桜の下で交わした約束を幻に見て突入する。第十一章の孤児は、孤児院での仲間の笑顔を抱え、第十二章の武家の青年は「忠義と名誉」の矛盾を抱えたまま消える。
そして――最後の第十三章。
「戦争に疑問を抱いた青年」岡島は、零戦に乗り出撃命令を受けながら、胸の奥で強烈な違和感に突き動かされる。走馬灯は彼にも訪れる。しかしそれは「死の美化」ではなく、「生への渇望」として彼の意識に流れ込む。彼は母の笑顔、幼い頃に見上げた自由な空、仲間たちの未完の夢――石井の俳句や中村のスケッチの断片までをも思い出す。
やがて岡島は決断する。突入の瞬間、操縦桿を強引に切り、編隊を外れて空の彼方へ逃げたのだ。背後では仲間たちの機体が爆炎に消えていく。彼は「裏切り者」「臆病者」と後に呼ばれ、敗戦後も罪悪感に苛まれる。だが、仲間の未完の言葉や夢を「生きて伝える使命」として背負うことになる。
本作は、死を美化する特攻の中にあって唯一「生」を選んだ青年の存在を通じ、残酷な戦争の本質と、未来に語り継がれるべき「声なき記憶」を描き出す。