あらすじ
かつてこの世界は、言葉によって形づくられた。
国の名は力であり、地図に記された文字こそが存在の証だった。
ゆえに──「名を奪う戦争(ジオウォーズ)」が起きた。
勝者の名が地図を塗り替え、敗者の国は歴史から消えた。
少年・アシェルは、“名を失った国”の唯一の生き残り。
彼の記憶の中には、かつて自分がどこの民だったのかという確かな感覚がある。
だが、世界のどの地図にも、その国の名は存在しない。
誰も、どの書にも、その国を覚えていない。
アシェルは禁忌の「白地図(タブラ・ラサ)」を手に入れ、
失われた国の名を取り戻す旅に出る。
彼の武器は、世界最古の魔術体系――国名術(ジオノミア)。
国名を唱え、地図に刻むことで現実を塗り替える力。
しかし、彼の行く手には三つの勢力が立ちはだかる。
一つは、地名を管理する秩序機関「地名庁(トポニム・オフィス)」。
一つは、世界の地図を書き換えることを目的とする秘密結社「無名派(アノニム)」。
そしてもう一つは、かつてアシェルの国を“無名化”した伝説の国名術士「セレスティア公」。
戦いは現実の地上ではなく、「象徴地図(アイデア・マップ)」の上で行われる。
一筆の線が国境を変え、一つの名が都市を滅ぼす。
アシェルは奪われた名を取り戻すため、
世界そのものと――その言葉の秩序と――戦う。
だが彼はやがて知る。
“名を取り戻す”とは、“新たな地図を描く”こと。
そしてその行為こそが、再び世界を破壊することなのだと。