あらすじ
――エルデン村の朝は、静かで、どこまでも澄んでいた。
新緑の香りが、ほのかに鼻腔をくすぐる。遠くで鶏が鳴き、土の匂いが風に乗って流れてくる。俺――シオン・アーデルは、村外れの小さな家の前に立ち尽くしていた。手には、まだ使い慣れない鍬。目の前には、荒れ果てた畑。これが、俺の新しい人生の始まりだ。
「……さて。これが“自由な人生”ってやつか」
思わず、独り言が漏れる。誰もいないはずの朝の空気に、俺の声が溶けていく。だが、心の中は妙にざわついていた。
「まさか、だよな。九百九十九回も転生して、ようやく手に入れた“戦わなくていい人生”が、こんな田舎の畑いじりだなんて。……いや、悪くはない。むしろ、贅沢だ。だが、どうにも落ち着かないのは、俺が勇者だった頃の癖か、それとも……」