あらすじ
ざわり、と低学年の教室あたりから、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。うるさい、な……。耳をふさいでしまった。誰かの笑い声なんて、いつもはなんとも思わないのに。ぼくって、すごくいやなやつ。
「筒井くん?」
司書の水野さんが歩いてくる。
水野さんは、にこっと笑ってから、ぼくの隣にしゃがんできた。
「どうしたの。こんなところで。みんなと遊ばないの?」
「いや、今日は……いいかなって」
また、悔しさがこみあげてくる。なんとか笑おうとしたけれど、うまく笑えない。どうしても、さっきのことを思い出してしまう。
今年こそ、みんなが楽しめる企画を作りたかった。一年生から六年生の全員が「またやってほしい」っていってくれるようなことをしたかった。
それなのに、ジャンケンで負けた。
ぼくがクラスで一番、図書委員をやりたかったはずなのに。
こんなことを話したら、水野さんに「子どもだね」っていわれちゃう。来年は中学生になるんだし、こんなことでふてくされてたらダメだと思う。
でも、どうやったってこんなことなんだって思えなくて、じわじわと熱いものがこみあげてくるのに、いらいらした。
「いいたくない?」
こくりと、うなずく。
「そっかあ。……あっ、そうだ。ねえ、筒井くんは今年も図書委員になってくれるんだよね?」
ずきん、と心臓がふるえる。緊張で、全身の血が凍りついてしまいそうで、水野さんの顔を見れなかった。
「筒井くん。図書委員の仕事、すごくよくやってくれるから、期待してるんだ。図書室が盛りあがるようにって、いつもたくさんのことを考えてくれるでしょ。だから、わたし、いつも感謝してるの」
喉から言葉が出てこなくて、ただうつむいていた。そんなことをいわないで。だって、ぼくはもう、体育委員になっちゃったんだ。
頭のなかがめちゃくちゃで、色んな感情がぶつかりあっていて、叫びだしそうになるのを必死でこらえた。
「あの……筒井くん。だいじょうぶ? もしかして、具合悪いの?」
ぼくはぶんぶんと首を振って、立ちあがる。水野さんに、ぺこっと頭を下げると、昇降口へと走り出した。
後ろから、水野さんが何かをいう声が聞こえたけれど、ふり向けなかった。
ああ、やっちゃった。水野さん、逃げちゃってごめんなさい。
あと、図書委員になれなくて、ごめんなさい。
イラスト:ノーコピーライトガールさま