あらすじ
あらすじ
市民C-1138は、模範的な国民だった。心拍は常に同期、思考は完璧に停止、質量は50年間1ナノグラムの狂いもなく維持してきた。彼の目標は、誰にも認識されることなく、ある日静かに「存在論的消去」の対象となり、完璧な無に貢献することだった。
その日までは。
浮遊していたマイクロダストが鼻腔を刺激し、彼の身体は、彼の意思を完全に無視して法典最悪の違反行為の一つ――「くしゃみ」――を敢行したのだ。
大気への違法な物質放出、120デシベルを超える騒音、時空連続体への衝撃。複合的な罪状は瞬時に記録され、彼の罪はレベル3「遡及的存在抹消」に相当すると自動判定された。
しかし、システムに前代未聞のエラーが発生する。「くしゃみ」という原始的すぎる犯罪の前例が、データベースに存在しなかったのだ。
かくしてC-1138は、抹消されるまでの間、「自己の罪状を定義し、適切な処罰を申請するための委員会」への出席を命じられる。彼は、自らが犯した「くしゃみ」という現象を物理的、概念的に分析し、それが宇宙の静寂にいかに深刻なダメージを与えたかを、AIと執行官たちの前でプレゼンしなければならなくなった。
「呼気の最大到達距離と、それによる大気分子の非可逆的攪拌について」「発生した音圧が近隣住民の思考野に与えた影響の考察」「くしゃみという概念の存在が、宇宙の無に与える哲学的ダメージ」。
完璧な自己否定を求められるプレゼンの中で、C-1138は皮肉にも、人生で初めて「思考」し、「創造」し、「自己を主張」する必要に迫られる。これは、たった一回のくしゃみによって、宇宙の根本的矛盾に巻き込まれてしまった、一人の男の悲劇と喜劇の全記録である。