あらすじ
東京の湾岸地区に佇む、最新鋭の「神無月(かんなづき)美術館」。その目玉は、無数のカメラとモニターで構成された、監視社会そのものをアートへと昇華させた展示『パノプティコン』である。
ある朝、その展示室の中央で、美術館館長・雨宮(あめみや)が死体で発見された。部屋は完全な密室。24時間稼働する監視カメラの映像には、雨宮が誰とも接触せず、まるで眠るように絶命する瞬間だけが記録されていた。
警視庁の若手刑事・田中は、自殺として処理しようとする。だが、現場に招かれた一人の男が異を唱えた。彼の名は影山悟(かげやま さとる)。視覚情報と認知心理学の専門家であり、警察が極秘に頼る民間コンサルタントだ。
「田中刑事。映像は、時として人間以上に雄弁な嘘をつくんですよ」
影山は、完璧に見える監視映像に潜む、僅かな“ノイズ”に気づく。容疑者は、館長と確執のあった天才デジタルアーティスト、野心家の女性キュレーター、莫大な遺産を相続する放蕩息子。誰もが動機を持ち、誰もが犯行は不可能だった。
虚像(カメラ)が見たものは、真実か、あるいは巧妙に仕組まれた芸術(トリック)か。影山の常識外れの捜査が、デジタル社会の死角に潜む、歪んだ殺意を暴き出す。