あらすじ
写真家・片桐誠一、五十七歳。
戦場や砂漠を渡り歩き、世界の生と死をカメラに収めてきた男は、医師から余命一年を告げられる。かつて幾度となく死を撮り、死を越えて生き残ってきた自分が、今度は逃げられない番になった。
そんなある日、彼は山岳仲間から**「雲龍」**の話を聞く。——嵐の夜、霊山の稜線に稲光を背負って現れる龍。見た者は神の加護を受けると伝えられるが、古来より挑んだ者は多くが命を落とした。
最後の一枚として、その龍を撮る。そう決めた誠一はカメラを担ぎ、村人や猟師の警告を振り切り、老僧の言葉に導かれながら山へと向かう。
嵐の夜、稜線に立った誠一は、雷鳴と暴風の中で雲龍の出現を目撃する。命を削りながらもシャッターを切り続ける彼の胸には、戦場で失われた命の記憶、死者への贖罪、そして生の最後の輝きが去来していた。
帰還後、誠一は写真展を開き、戦場の写真と雲龍の写真を並べる。訪れた人々は沈黙し、涙を流し、そしてそれぞれの記憶と写真を重ね合わせた。
やがて誠一は静かにこの世を去る。だが彼の写真は残り、人々の目に、そして記憶に生き続ける。
——世界は時々、こちらを見返す。シャッターを切るたび、その瞬間に触れられる。
その言葉とともに、雲龍の姿はやがて伝説となり、春の空にたなびく雲の中に再び現れるのだった。
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