あらすじ
「お母様に似れば……」物心つく頃から、ため息交じりに呟くように言われ続けて来た言葉。その意味を知った日は、生まれた時から決められていた許嫁との『初お目見え』の日に、当の許嫁から言われた言葉だった。
「こんな顔の女とは、婚姻したくない!」その一言でその場に居た一同は氷ついた。お互い幼いながら、躾の厳しい家門に育った者同士。親族が揃うこの場で、開口一番に放たれたその言葉に、私は傷つくよりも、無性に腹が立った。
「お父様に似たのは、顔だけではありません。」そう言うなり、許嫁殿の顔面に拳をお見舞いした。「気性も父譲りです。武門の家系の女ですもの。悔しかったら、やり返してみては?あなたに負ける気はしませんが。」
許嫁は、鼻血を出して晴れ着を血で汚しながら大泣きし始めた。それへ駆け寄って抱き上げる母御前。私を睨みつけた。
その様子を黙って見ていた母だったが、許嫁の母が参戦して来たので、「初めに無礼を言ったのはそちらですよ。」
美しい顔に微笑みを浮かべて、優しい声で耳にやさしく話す。「不意だったとは言え、始めの一撃を防げないなんて。戦場では生き残れませんね。早世する婿殿は困るので、この婚約は無かった事にしましょう。」美しく笑みながらそう言った。父親は、惚れた弱みで母に頭が上がらない。黙って成り行きを見るだけだった。
父は崑国の左軍の総監。戦場において負けなしの武人である。許嫁は同じ崑国右軍の将軍の息子。どちらも武門の家であった。この家門同士の婚姻を、国王がことのほか喜んでいたのだが。
「いい拳でしたわ。母はスッとしました。」娘の武勇を、母は誉めた。そんな母とこんな娘に、あんな父だったから、私は私の好きな道を歩む事にした。