あらすじ
「これ……見ろよ……」
終電の車内。夜も更け、乗客はまばら。車内は蛍光灯の白い光にぼんやりと照らされている。窓の外は真っ黒に塗りつぶされ、たまに街灯の明かりが虫のように飛び込んでは、すぐに消えていく。
「これ、見ろって……」
窓ガラスは風景を映さず、ただ黒い鏡となって、おれのぼやけた顔を浮かび上がらせている。その虚ろな窓を、おれは何とはなしに見つめていた。
「なあ、見ろよ……」
……いや、おれに言っているのか? さっきから隣に座る男が、低くぶつぶつと何かを呟いているのは気づいていたが、独り言だと思って気にしないようにしていた。