あらすじ
東京の華やかな街並みに憧れて地方から上京した相原由衣。しかし彼女は非社交的な性格ゆえに、休日も同僚と出かけることなく、狭い部屋と職場を往復するだけの生活を送っていた。眩しいほどの都会の光景を目の前にしながらも、その世界に踏み込むことができないでいる。
そんな彼女が働く職場では、時折ちょっとした謎や不思議な出来事が持ち上がる。会議の準備で起きた資料の混乱や、休憩スペースで起きたささやかな出来事など、誰もが些細だと考える問題。しかし周囲の人々が簡単に納得してしまう説明に、由衣は違和感を覚える。彼女は人と積極的に関わることは苦手だが、観察眼と論理的な思考力に優れており、その小さな「違和感」から真実を見抜いていく。
最初は誰も由衣の推理に気づかない。むしろ他の人物がもっともらしい推理をして場を収めようとする。けれど由衣は、その推理に潜む矛盾点に気づいてしまう。声を上げる勇気を持てない彼女を見抜いて声をかけるのが、同僚の成瀬翔真だった。落ち着いた雰囲気を持つ彼は、女性社員からは下の名前で親しげに呼ばれ、男性社員からは苗字で呼ばれる人物。彼自身は特別に由衣に興味を持っているわけではなかったが、彼女が示す鋭い視点に少しずつ心を惹かれていく。
由衣にとっても、翔真は特別な存在ではなかった。だが、自分の考えを代わりに口にしようとする翔真の姿に触れるうちに、彼女は徐々に彼との交流を増やしていく。東京の華やかさを遠くから眺めていた彼女の世界が、少しずつ色を帯びて広がっていくのだった。
本作は、会社という日常的な舞台で起きる小さな謎を通じて、人とのつながりや自分自身の変化を描く推理連作。殺人や暴力事件のような重苦しい題材は扱わず、仕事の合間や一日の終わりに安心して楽しめる軽やかな物語である。