あらすじ

麗乃の意識が戻った時、鼻腔を満たしていたのは埃と獣の臭いだった。薄汚れた粗末な布が身体を覆い、硬い土の床が肌に突き刺さる。頭が痛む。記憶の断片が、鮮やかな色彩と同時に、鈍い痛みとして蘇る。大学図書館への就職が決まっていたこと、司書資格取得の喜び、そして……事故。トラックのヘッドライト、耳鳴り、そして闇。

彼女は死んだのだ。本に囲まれた人生を夢見ていたのに、人生はあっけなく幕を閉じた。今、彼女は、どこかの異世界、薄暗い小屋の中で目を覚ました。

「……ここは…?」

かすれた声は、自分のものではないようだった。周りの様子を窺うと、粗雑な木造の小屋で、薄汚れた食器や粗布が散乱している。小さな窓から差し込む薄暗い光は、この世界の貧しさを露呈していた。

「おい、アイリス!寝ぼけてるのか!」

怒鳴り声が響き、太い腕が彼女の肩を掴んだ。父親らしき男の、酒臭い息が鼻をつく。アイリス。それが、この世界の彼女の名前らしい。

それからというもの、アイリスとして生きる日々は、想像を絶する苛酷さだった。父親は酒浸りで、母親は数年前に病死している。食料は乏しく、日々の生活に追われる日々。識字率の低いこの...

連載情報

ウェブ小説

配信言語
アルファポリス
アルファポリス2025/09/01
  • 現在の作品孤児院の司書