あらすじ
クノン・グリオンは、生まれたときから何も見えなかった。医師は「英雄の傷跡」と呼ぶ、原因不明の呪いのせいだと説明した。視覚だけでなく、未来への希望さえ奪われたような、どんよりとした日々が続いた。
幼少期は、ひたすら暗かった。触覚と聴覚だけが頼り。物音や空気の震え、温度の変化で周囲を認識する。だが、それだけでは世界は断片的にしか理解できない。周りの子供たちが楽しそうに遊ぶ声、鮮やかな色彩で溢れるであろう風景、全てが想像の域を出なかった。
両親は優しく、彼の視覚障害を理由に特別扱いすることはなかった。むしろ、普通の子供と同じように育てようとした。だが、クノンにはそれが苦痛だった。彼には、彼らと同じように世界を「見る」ことができないのだから。
「見えないから仕方ない」と、彼は自分に言い聞かせ、無気力な日々を過ごした。学校では、他の生徒に迷惑をかけないように、静かに隅っこで過ごすことが多かった。友人も、ほとんどいなかった。唯一の楽しみは、母親が作ってくれる蟹の味噌汁。甲羅を剥き、身を取り出す作業は、彼にとって、世界に触れる貴重な時間だった。
そんなある日、彼の左腕に、水の紋章が浮かび上が...