あらすじ
聖なる力を持つ「月の民」の里は、優しさと笑顔に満ちていた。
少年アルトも、心優しい家族や村人たちに愛され、穏やかな日々を過ごしていた。
――ただ、一つだけを除いては。
一族で自分だけが、聖なる力がほとんど使えない。
誰も彼を責めはしない。だが、皆の優しさが、アルト自身の無力感を静かに苛んでいた。
そんな無力な祈りも虚しく、帝国による突然の虐殺が全てを血に染める。
目の前で家族が、仲間たちが、抵抗もできずに殺されていく。守りたかった笑顔が、絶望に歪んでいく。
「――力が、欲しい」
死の淵をさまよう彼に、古の邪神が囁いた。
『力が欲しいか? ならば貴様の“感情”を差し出せ』
――ああ、いいだろう。くれてやる。
愛する人々を失ったこの【悲しみ】も、【怒り】も、何もかも喰らい尽くせ!
こうして邪神と契約し、最強の異能【虚ろの魔眼】を手に入れたアルト。
感情を一つ捧げるたび、彼は人知を超えた力を得て、復讐の道を突き進む。
だが、彼は気づいていなかった。
強くなることと引き換えに、自分の心が少しずつ死んでいくことに。
幸せだった日々の思い出が、剥がれ落ちていくことに。
「ねぇ、君は……本当に、大丈夫なの?」
そんな彼の変貌に、ただ一人、少女リリアだけが気づいていた。
これは、心を失って最強に至った復讐者が、救ったはずの世界で最も大切なものを見失ってしまう、あまりにも残酷で切ない英雄譚。