あらすじ
雨は、健二のスーツをじっとりと濡らしていた。 午後八時過ぎ。ネオンが滲む繁華街の裏通りを、とぼとぼと歩いていたのは――伊東健二。四十歳、営業職、独身。 今日もまた、会社では上司に怒られ、取引先に頭を下げ、後輩には気を使い……そんな日常に、もう心が擦り切れていた。
コンビニの袋には、缶チューハイと、割引シールの貼られた弁当。 家に帰って風呂に入って、酒を飲んで、寝るだけ。 誰にも褒められず、誰にも頼られず、ただただ毎日を消化するような生活に、ふとため息が漏れた。
「……異世界にでも行けたらなぁ……のんびり、平和に、暮らしたいよ……」
それは、ただの愚痴だった。 誰に聞かせるでもない、誰にも届かないひとりごと。
だが、その瞬間―― 視界が、真っ白に染まった。
「えっ……!?」
次の瞬間、健二は見知らぬ空間に立っていた。