あらすじ
28歳の黒川奈央は、地方出版社で編集をしていたが、リストラと社内再編の波に呑まれ、今はフリーの校正・編集代行でかろうじて生計を立てている。ある夜、過労で倒れた奈央が目を覚ますと、そこは古びた本屋街。しかしそこで扱われているのは、現実世界で売れ残った小説ばかりだった。
町には、作者の未練や習作、書き切れなかった結末が具現化した“本の住人”たちが暮らしている。偶然出会った本屋の店主・里見誠は、かつて若手作家として注目されたが、一冊の失敗作により立ち直れずにいた。
町は“物語の疲弊”によって縮み始め、住人たちは薄れ消えかけている。奈央は、編集者としての職業倫理と本能から、町の“売れない本”たちの話を聞き、「物語を直す」仕事を引き受ける。
単なる推敲ではなく、作者の未練を受け取り、登場人物の事情を読み解き、時には作者本人と和解させることで物語に“本当の終わり”を与える――本の住人は救われ、町は少しずつ息を吹き返す。やがて奈央と里見は、編集/作家という役割を通じて互いの傷を理解し、ゆっくりと恋情を育む。
クライマックスは、奈央が現実世界に戻るか、この町に残るかを選ぶ場面。選択の先には、「物語の価値」と「人と物語の関係」についての静かな答えがある。
主要テーマ:職業倫理、創作と消費、再生(ヒーリング)、人と物語の関係、ゆっくり育つ恋。語り口は会話劇を軸にテンポよく、時にコミカル、時に胸が締め付けられる感情を混ぜる。