あらすじ
景司は有名大学を卒業後、大手商社に入社し、わずか三年で係長に昇進。誰もが彼の出世を疑わなかったが、景司はふと立ち止まり、「自分だけが前に出てよいのか?」と問い直す。以後、彼は部下や同期の成功を支えることに徹し、企画や契約の手柄を譲り続けた。陰で支え、見返りを求めず、沈黙を貫いた景司は、やがて「便利な係長」として扱われ、昇進の機会を逃していく。
誤解や孤独に耐えながらも、景司は自分の選んだ道に誇りを持ち続けた。定年を迎えた日、彼は肩書きのない背中にこそ、確かな灯がともっていたことを知る。出世はしなかったが、人を育て、譲り続けた人生は、静かに誰かの中に残っていた。「冠はなくても、誇りはある」、景司の歩みは、名もなき者の美しさを照らす。