あらすじ

大雨の夜、営業終わりのタクシーに、一人の女が飛び込んできた。 全身ずぶ濡れで、震えながら「追われてるの、お願い、走って」と繰り返す彼女に、俺は迷いながらも後部座席のドアを開けた。 行き先は、郊外の小さな坂の上にある学校。 この暴風雨の中、そんな場所へ向かう理由は説明されないまま、車は静かに発進した。 アクリル板の向こう、彼女の姿は霧に包まれ、次第に見えなくなっていく。 それでも「もっと速く」と、どこか水中から響くような声だけが聞こえていた。 車内にはいつの間にか湿気が広がり、ミラーは曇り、床には水が染み出していた。 背中に冷たいものが触れた時、俺はようやく「これはただの乗客じゃない」と理解する。 彼女は濡れ続けていた。乗車から何十分経っても、服も髪も乾かず、むしろ車全体を濡らし始めていた。 呼吸すら重くなるような圧迫感の中、たどり着いた坂の上で、彼女はぽつりと呟いた。 「ここなら、もう大丈夫」 振り返ると、後部座席には誰もいなかった。 残されていたのは、水たまりと、窓ガラスに貼りついた長い髪の毛だけ。 その直後、無線から市街地が海水で浸水したという緊急速報が流れた。 ……もし、あの時ドアを開けていなかったら。 今、俺はここにいなかったのかもしれない。 ――乗せた女は、乾くことがなかった。

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小説を読もう2025/07/27
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