あらすじ
三十年前、突如として世界を襲った未知のウイルスは、人類の九割から「繁殖能力」を奪った。
子をなせるオメガは急速に減少し、彼らは「種を繋ぐ資源」として各国や巨大企業に管理される存在となった。
ドーム都市〈エデン〉は、そうした資源を囲い込む最後の拠点であり、人類の未来を握る檻でもあった。
アキ――十八歳。
彼は「人類最後の男性オメガ」として、幼い頃から研究施設に幽閉されていた。
名前よりも「実験番号」で呼ばれ、薬物投与や繁殖実験の対象として扱われる日々。
心はとっくにすり減り、「僕は災厄を呼ぶ存在だ。ならば死んだ方がいい」と、死を願うことだけが彼の希望だった。
だが、その運命を狂わせる男が現れる。
レオン・クロウフォード。二十五歳、冷酷と恐れられる特殊部隊のアルファ騎士。
任務のはずだった脱走作戦で、彼は銃火の中、血まみれになりながらアキの手を引き、こう言った。
「お前は資源じゃない。――アキだ」
その瞬間、アキの凍りついた心にひびが入る。
自分を“人”として呼んでくれる者が、まだこの世界にいたのだと。
施設を脱出した二人を待っていたのは、荒れ果てた砂漠、奪い合う国家と企業、そして迫り来る追跡部隊。
逃避行の果てに辿り着いたオアシス都市でも、アキは「災厄を呼ぶ存在」と恐れられ、石を投げられる。
「やっぱり僕は、生きているべきじゃない」――そう泣く彼に、レオンは答える。
「お前が生きることが、この世界が続くことだ」
やがて二人を襲う暗殺者の刃。レオンが重傷を負ったとき、アキは初めて「生きたい」と願った。
それは自分のためではなく、彼を生かすために。
――その瞬間、アキは死を望む存在から、「未来を選びたい」と願う人間へと変わり始める。
だが、彼らの逃避行は終わらない。
捕らえられたアキは、公衆の面前で「繁殖婚姻」を強要される。
レオンは幽閉され、再びすべてを奪われかける中――血にまみれた騎士は枷を破り、彼のもとへと駆けつけた。
そのとき、アキは群衆に向けて叫ぶ。
「僕は資源でも道具でもない! 僕はレオンと共に未来を選ぶ人間だ!」
その言葉は、二人だけの恋を超え、人々の心に希望の火を灯す。
滅びゆく世界で、絶望の象徴だったはずの「ラスト・オメガ」が、希望の象徴となる瞬間だった。
国家を敵に回しながらも、二人は逃げるのではなく、新しい共同体を辺境の地に築く道を選ぶ。
それは決して平穏な未来ではない。
けれど、互いを信じ、生き抜く意思さえあれば――人類の明日はまだ終わっていない。
冷酷なアルファ騎士と、最後のオメガ。
死を望んだ少年と、生きる意味を与えた男。
二人が紡ぐバディ愛は、やがて世界を変える希望の物語へと昇華していく。