あらすじ
商家の娘アヤネは、幼い頃から帳簿をつけ、両親を助けてきた。
どんな計算も、どんな取引も、彼女にとっては呼吸のように自然なことだった。
しかし、彼女には一つの弱点があった。
それは――人の痛みを切り捨てられない優しさ。
利益のために従業員を切ることも、無理な取り立てをすることも、彼女にはできない。
それでも頭脳は冴えわたり、商会の経営は安定していた。
そんな彼女の心の奥底には、抑えきれない衝動があった。
「……もし、何もない場所で、自分の知識と力だけでやり直せたら。
果たして、私は本当に人の役に立てるのだろうか」
ある夜。
喉が渇いて起きたアヤネは、廊下を歩く途中でふと、売り場の一角から光が漏れているのに気づいた。
近づくと、古びた一冊の本が強烈な光を放っていた。
ページを開いた瞬間――
世界は歪み、砂漠の熱風が頬を打った。
目を開ければ、彼女は果てしない砂漠に立っていた。
遠くに見えるのは、城壁を持つ小さな町。
「……ここは……?」
「これが異世界……ここから始めればいいのね……」
アヤネは、光る本を胸に抱えながら、一歩を踏み出す。