あらすじ
俺の名前はヒロト。埃っぽいライブハウスで、誰にも届かない歌を叫び続けている。かつて伝説のロックスターだった師匠のケンジは、俺の才能を誰よりも信じてくれた。それでも、俺はブレイクできなかった。
そんなある日、テレビ画面に映る同い年のミュージシャン、ナツキを見た。彼は、大物プロデューサーのコネで成功した「偽物」だと、俺は激しく嫉妬した。自分の歌が届かないのは、ナツキのような存在が邪魔をしているからだと、そう信じていた。
沸々と煮え滾る不公平感を師匠にぶつけると、彼は静かに言った。「お前の実力があるなら、使えるものは使え。俺の名前でも、踏み台にしてくれていい」。その言葉は、俺が頑なに守り続けてきた「孤高のプライド」を打ち砕いた。悔しくて、情けなくて、胸の中でガラス細工のように精巧だったプライドが音を立てて砕け散るのを感じた。
だが、師匠の言葉の真意は、俺の才能を信じているからこそ、この世界に埋もれさせてはいけないという、深い愛情だった。俺は、初めて他者の助けを受け入れることを決意する。
師匠の名前を借りて、俺は再びテレビの舞台に立った。一部からは「ごり押し」と囁かれたが、もう迷いはなかった。この歌は、俺の全てだ。報われない苛立ち、親への反骨心、そして師匠への感謝。すべてを音に乗せ、心の底から歌い上げた。
歌い終わった後、会場は静寂に包まれ、やがて大きな拍手が巻き起こった。それは、師匠の名前への拍手ではなく、俺自身への拍手だった。熱狂が広がる中、俺はライブハウスでナツキと再会する。「……参ったよ」、彼のその一言が、俺の才能を認めてくれた最高の賛辞だった。
ライブハウスの暗闇は、もう怖くない。踏み台は、誰かのために用意されたレールではない。自分の力で、さらに高く跳ぶための、最初のジャンプ台なのだ。これは、一度すべてを失った男が、本当の「自分の歌」で、未来を切り拓いていく物語だ。