あらすじ

辺境の診療院で孤児や旅人を癒していた青年治癒師セレスは、ある夜、突如現れた黒い召喚陣に呑み込まれ、魔王アレクシスの玉座の前に連れ出される。 「多年の誓約に従い、おまえを我が花嫁として迎える」――一方的な宣言と共に指に嵌められた黒金の指環は、鼓動を通じて魔王と彼を繋ぎ、逃亡の道を閉ざす。 人と魔が憎み合う時代。囚われの身でありながらも、セレスは「患者を選ばない」という矜持を曲げず、魔族の幼子や傷ついた兵を治療していく。やがて“人間の花嫁”という存在は敵視と羨望を呼び、刺客に狙われ、陰謀に巻き込まれていく。それでもセレスは己の職能を武器に対抗し、次第に城下にも彼を慕う声が芽生える。 無口で冷徹に見える魔王アレクシスは、実は人と魔の境で自らを蝕む瘴気に苦しみ、孤独に耐えてきた存在だった。セレスを守ろうとする過保護なまでの献身は、支配ではなく「唯一失いたくないもの」への執着から生まれていた。だが、二人の間には言えない秘密がある。かつて戦乱の夜、瀕死の少年を救った無名の治癒師――その記憶がアレクシスの心を縛っており、セレスこそがその人物であることを互いに確信できずにいた。 やがて人界の教団が魔王暗殺を企て、セレスは拉致される。指環を奪われた魔王は自我を失い暴走、国は崩壊の危機に瀕する。拷問にも似た儀式の中で、セレスは治癒能力を大きく失う覚悟で魔王の命を繋ぎ止め、自らも瀕死に陥る。再会の瞬間、アレクシスはついに言葉で告げる――「おまえがいなければ王でいられない」。セレスもまた「患者を選ばない」という信念の先に、彼一人を選ぶ決意を示す。 戦乱が収まった後、二人は人魔共同の療養所を築き、敵味方の区別なく治療と学びの場を開く。冬至祭の広場で公式に“番”として承認され、黒翼の王と白衣の花嫁は隣に立つ。 ――愛は囚われではなく、誓いとなった。孤独に沈んでいた王の冠を支えるのは、一人の治癒師の手。憎しみを越えたその日常から、新たな国の未来が始まっていく。

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カクヨム
カクヨム2025/09/16
  • 現在の作品花嫁は患者を選ばない――魔王城診療録