あらすじ
(登場人物)
俊介・・・主人公。優等生から転落し、甘えと逃避を繰り返すが、老いてから再起を図る男。
母親・・・理容店を営む。息子を盲目的に信じ、甘やかすが、最後まで支え続けた。
父親・・・厳格で現実主義。俊介の甘えに怒りながらも、陰で支えようとする不器用な父。
高橋・・・両親の友人。母親から息子を庇った相談を受け、父親からは真実を聞く。
東大生・・・電車で偶然出会う青年。俊介に『再挑戦』の火を灯すきっかけとなる人物。
美佐子・・・かつての恋人。図書館で再会し、俊介の変化を受け止める。シングルマザー。
老人・・・哲学を学び直した元会社員。俊介に『学び直し』の可能性を教えるキーパーソン。
若者たち・・・文芸サークルのメンバー。俊介の言葉に触れ、人生への向き合い方を学ぶ存在。
(あらすじ)
『逃げ続けた僕が、立ち止まった日』―甘えの構造に切り込む、ある男の再生記録―
この物語は、この両親の共通の友人だった高橋が実際に受けた一本の相談から始まった。
「息子がいじめを受け、自殺未遂をしました」――母親の震える声に、高橋は胸を締めつけられた。
その母親は、息子の心を立て直すために「卓球を教えてほしい」と高橋に頼んだ。息子は卓球が得意だと聞いていた。
卓球場で対峙した中学生の彼は、実際にはそれほど上手ではなく、大人との試合で1点も取れなかった。
試合後、彼は号泣しながら「高橋さんなんか嫌いだ!」と叫んだ。
その時、母親は高橋に「手加減して勝たせてあげて」と懇願した。
自殺未遂――それは、甘えの構造が生んだ悲劇で、母親の高橋への説明は高い橋から川に飛び込んで自殺未遂をしたとの説明だったが、父親から聞いた事実は、ただ浅い川に飛び込んで、ずぶぬれになって帰って来たとの事だった。
この小説は、その少年の姿を重ねて描かれた主人公の俊介の物語である。
中学時代に優等生だった俊介は、傲慢さから同級生に暴力を受け、クラスメイト全員から虐めを受けて心を閉ざす。
その後の人生は、努力を避け、母親の庇護に甘え、浪人を繰り返し、社会との接点を失っていく。
50代になっても生活保護を受けながら孤独に暮らす俊介。だが、ある春の日の偶然の出会いが、彼の心に小さな火を灯す。
「人生に遅すぎる挑戦はない」
その言葉を胸に、俊介は学び直しを始める。文章講座で自分の過去を綴り、地域の文芸誌に作品が掲載される。
かつて誰にも認められなかった男が、誰かの『灯』となるまで――。
この物語は、いじめ、親子の葛藤、甘えの構造、そして老いと再生を描いた『静かな魂の記録』である。
そして、読者に問いかける。
「本当に大切なことは、いつ始めても遅くはないのではないか」と。