あらすじ
高校3年の武田健一は、梅雨の鬱屈した空気が漂う高校最後の夏を前に、漫然とした満たされない焦燥を抱えていた。そんな6月10日の雨の日、健一は鎌倉の裏道、紫陽花が咲き誇るポストの前で、傘もささずに佇む一人の少女と出会う。
翌週、健一のクラスに転校生として現れた彼女は、朝倉聡美と名乗った。どこか浮世離れした、掴みどころのない聡美のきらめくような存在感に、健一は微かな違和感を覚えつつも強く惹かれてゆく。
一方、健一の幼馴染であり、一年後輩の倉町渚は、健一の前では明るく振る舞いながらも、心に深い孤独を抱えていた。突然現れた聡美の輝きに憧れを抱きつつも、健一への秘めた想いとの間で揺れ動く。
健一の親友である山本和成もまた、片瀬海岸でアウトリガーカヌーに情熱を注ぐ傍ら、自身の未来と現状との間に葛藤を抱え、立ち止まっていた。
期末考査を終え、渚の提案で、健一は聡美を誘い、渚、和成と四人で、行きつけの甘味処を訪れる。『紫陽花のかき氷』と梅雨明けの空の下、ぎこちなくも瑞々しい四人の交流が始まった。
夏期講習、和成のカヌー大会、逗子での海水浴。渚と聡美の間にも友情が芽生え、聡美の存在を中心として、四人はかけがえのない絆を深めてゆく。 それはまさに、輝きに満ちた完璧な夏だった。
しかし、そんな日々に微かな陰りが混じり始める。
抱える過去、現状への満たされない思い、そして変化への抵抗。
夏の象徴であるかのような聡美もまた、不穏な気配に翻弄されてゆく。
それぞれが秘めた想いを胸に、それでも四人は、忘れられない夏の記憶を重ねてゆく。
そして、訪れる夏の終わり――
「私ね、武田くんが、山本くんや倉町さんが憶えていてくれるなら、この先もずっと幸せだと思うんだ」
湘南江の島・鎌倉を舞台に、淡く揺らぐ少女 と3人の高校生が紡ぐ、切なくも美しい、喪失と再生の物語。