あらすじ
「いいコトばかりじゃ、なかった中学……今となっては、全てが懐かしいの」
■あらすじ
蝉の声が響く夏の日。
母校が取り壊しを二日後に控えていると聞き、中学校を訪れた「あなた」。
誰もいないはずの教室で、体の透けている、ひとりの少女に出会います。
彼女は自分の名前さえも忘れていましたが、あなたの初恋の人にそっくりでした。
少女は、この学校に忘れてしまった「何かすごく大事な音」を探していると言い、あなたに「音集め」の手伝いを頼みます。
こうして、霊の少女とあなたの、二人だけの特別な時間が始まりました。
「音集め」で巡る、思い出の場所
二人は、理科室の窓を揺らす風の音、体育館が記憶しているボールが跳ねる音やバスケットのシュートの音、図書室の古い本の匂い、誰もいないプールの水道管から落ちる最後の涙のような水音など、学校に残された小さな音を一つひとつ丁寧に集めていきます。
無邪気で、どこか儚げな彼女と過ごすうちに、あなたは次第に心地よさを感じ始めます。夜の校庭のブランコで、二人はそっと寄り添い、彼女はあなたの心臓の音を聴きます。そして、月夜の音楽室で、彼女はかつて本気でピアニストを目指していた過去を語り、この透けている体では、もうピアノは弾けないと言います。
学校で過ごせる最後の日。あなたは、卒業アルバムを持って彼女に会いに行きます。
写真に写っていたのは、瓜二つの姉妹。
少女は、自分があなたの初恋の人「夏菜(かな)」ではなく、その姉の「陽菜(ひな)」であることを思い出します。
そして、陽菜が探し続けていた「大事な音」とは、病弱な妹・夏菜を励ますために交わした、「陽菜のピアノ演奏を録音したiPodを、タイムカプセルに入れて、未来で一緒に聴く」という約束でした。
しかし、陽菜自身も病に倒れ、その約束を果たせないまま魂だけが学校に留まっていたのです。
タイムカプセルの場所を思い出せない陽菜。しかし、あなたの記憶の断片が繋がり、二人は校庭の隅にある桜の切り株の下で、ついに錆びついた缶を見つけ出します。
約束を果たし、心残りがなくなった陽菜の体は、朝の光の粒子となって消えていきました。
別れの瞬間、彼女はあなたの心臓の音を「忘れない」と告げます。
数週間後。あなたが病院を訪れると、そこにいたのは、10年間の眠りから奇跡的に目覚めた陽菜でした。彼女は「抗NMDA受容体脳炎」という病気で、ずっと夢を見ていたのです。
あなたがタイムカプセルを見つけ出した時の、強い脳への強い刺激が、彼女を目覚めさせるきっかけとなりました。
iPodは壊れてノイズしか再生できませんでしたが、陽菜は「聴こえるよ」と優しく微笑みます。
「もう一度、ピアノを弾くよ」
そう誓う彼女の病室には、壊れたiPodのノイズに重なるように、あの夏の日の優しいピアノの音色が響いているのでした。
■登場人物紹介
あなた
物語の主人公であり、聞き手。
母校が取り壊されると聞き、海外から一時帰国して訪れました。
初恋の相手は、病弱な少女「夏菜」でした。
あなたは、夏菜の姉である幽霊の「陽菜」と出会い、彼女の不思議な「音集め」に付き合うことになります。
陽菜(ひな)
廃校となった中学校に現れる、明るくミステリアスな少女。
その正体は、10年前に重い病に倒れ、意識不明のまま病院で眠り続けている「生き霊」のような存在です。
本人はそのことを忘れ、自分を学校に留まる幽霊だと思い込んでいます。ピアニストを目指していましたが、病弱な妹・夏菜との約束を果たせなかったことが心残りとなり、魂だけが思い出の校舎を彷徨っていました。
悪戯っぽく笑ったり、主人公をからかったりする天真爛漫な一面と、ふとした瞬間に見せる寂しげな表情。
主人公との「音集め」を通して、忘れてしまった大切な記憶を取り戻していきます。